2015年2月17日火曜日

フソバクテリウム咽頭炎/patient-centered medical home/更年期の血管運動症状



本日付のAnnals of Internal MedicineとJAMA internal medicineで興味深かった記事を3つ紹介します。



The Clinical Presentation of Fusobacterium-Positive and Streptococcal-Positive Pharyngitis in a University Health Clinic: A Cross-sectional Study


咽頭炎の診断といえば、ウイルス性か溶連菌か考えよう、そのためにCentorスコアや迅速検査を使おう、という流れですよね。
この論文を読む限り、Centorさん本人は、そんな安易でいいのかと考えているみたいです。

15-30歳の咽頭炎では、少なくとも10%がFusobacterium necrophorumによるものです。

F. necrophorumは口腔内常在菌ですが、成人のF. necrophorum咽頭炎は400人に1人の割合でLemierre症候群になってしまいます。
βラクタマーゼ産生菌ですので、溶連菌の第一選択であるペニシリンではダメということになってしまいます。

F. necrophorumは、以前このブログでも扱ったことがあります。
(こちらの記事。伝染性単核球症に合併するVincent's anginaについて。)


急性の咽頭痛を主訴に大学の健康センターにやってきた学生312人と、無症状の学生180人を対象に、咽頭拭い液をPCRして菌のいる割合を調べています。結果は以下の通り。

F. necrophorum : 20.5%(患者)、9.4%(無症状)
A群溶連菌 : 10.3%(患者)、1.1%(無症状)
C/G群溶連菌 : 9.0%(患者)、3.9%(無症状)
マイコプラズマ : 1.9%(患者)、0%(無症状)

F. necrophorum、A群溶連菌、C/G群溶連菌が検出された患者群では、Centorスコアが高値でした。


この結果をどう臨床に用いるか悩ましいですね。

全患者に抗菌薬は論外として、じゃあCentorスコア高値ならF. necrophorumを考えてアンピシリン・スルバクタムなのかといえば、少しオーバーな気がします。

Centorスコアで1-3点ならストレップ迅速検査を行うことが多いと思いますが、F. necrophorum単独感染だと陰性にでますよね。そこで陰性なら培養ということになりますが、このプラクティスを全例に行うことは現実的なのでしょうか。まだ臨床の経験がないので判断できません。

膿瘍やLemierre症候群を疑わせる所見、伝染性単核球症後、口腔内不潔などがあれば積極的にF. necrophorum感染を考えるのはありだと思います。
そうでない一般の細菌性咽頭炎疑い例では、まずペニシリンで治療し、効果が乏しければF. necrophorumを疑う、ということになるのでしょうか。

細菌性扁桃炎のフォロー時には、溶連菌後急性糸球体腎炎に加え、F. necrophorumの可能性も考慮に入れる必要がありますね。



Patinet-Centered Medical Home Implementation and Use of Preventive Services: The Role of Practice Socioeconomic Context


Patient-centered medical home(PCMH)については
American Academy of Family Phycisians(AAFP)のサイト
もしくは藤沼康樹先生の本(いわゆる赤本)に載っています。





私は赤本でこの概念を知りました。以来、私の志向する医療像の1つとなっています。

簡単に説明すると、その人が今までどんな生活をしていて、いまどんな健康状態で、これから健康に暮らすために何が必要なのかを包括的にとらえるためのシステムです(と理解しています)。
具体的には、他院の受診について相談できたり、予防についてきちんとレコメンドできたり、介護負担や金銭的問題などについても連携してアプローチできたりするような場です。
疾患AがあるからA病院で薬をもらい、疾患BがあるからB診療所に行き…、といった行き当たりばったり式の分断医療では医療機関も患者さんも困っちゃうと思うのです。

たしかAAFPが新年のあいさつで、PCMHについていろいろ実践してみたけどやっぱりいいよコレ、と主張していたように記憶しています。日本でももっと広がっていってほしい概念です。


この研究では、特に低所得地域において、PCMHはがん検診率を向上させたとしています。

multimorbilityの時代になり、polypharmacyとpolydoctorが当たり前になっているからこそ、予防も含めた包括的な医療を提供するPCMHはどんどん必要になっていくと私は思っています。



Duration of Menopausal Vasomotor Symptoms Over the Menopause Transition


いわゆる更年期障害のうち、受診理由として最も多いのが血管運動症状(vasomotor symptom; VMS)です。
顔のほてりや夜間の発汗などが現れます。更年期のいわゆる「自律神経失調」ってやつです。

VMSは従来、続いたとしても2年くらいだと言われていたらしいのですが、この研究は、じつは半数の女性で経過は7年以上にわたり、また閉経後も症状は4.5年続くことを示しています。
患者さんに「半数の人で7年以上続きます」としっかり説明しましょう、ということらしいです。